ホーソン実験、グループ・ダイナミクス、自律的なグループのための古典を探る

グループ・ダイナミクス(集団力学)

IMG_5214前回は、組織活性化について考えた。今回はそこで登場した「小集団(グループ)」について見ていきたい。引き続き大沢武志『心理学的経営―個をあるがままに生かす』から学ぼう。

古典「ホーソン実験」

まずは古典から入ろう。1924年〜1932年にエルトン・メイヨーらがアメリカのウェスタン・エレクトリック社ホーソン工場で実験を行った。当初は、作業室の明るさが作業効率にどのような影響を及ぼすかを明らかにするための「照明実験」であった。

6名の女性作業員が継電器という部品の組み立てを行った。照明を順次明るくするにつれ生産性は予想どおり上昇していったが、照明を一定にしても、さらには照明を暗くしても、生産性は上昇を続けた

これはいったい何が起きているのだろうか?

悪条件の下においても作業効率は上がり、生産性も向上する、という意外な実験結果のなかに重要な真実が含まれている。

仕事をしても疲れない、むしろ時間の経過を忘れ、苦しさや辛さを超越して仕事に没頭できるパラダイスが存在するのだ。

選ばれることと任されること

実験のメンバーに選ばれたこと自体に意味があった。何か新しい特別なことに参加させると、その選ばれた集団のモラール(意欲)が高まる。これが原理としての「ホーソン効果」だ。そして、もう1つ重要なことがある。

実験中は、集団の運営にあれこれ指示を与えずグループメンバーに多くを委ねていた任せて「邪魔をしない」ことが仕事に没頭させるポイントだったのだ。

このホーソン実験からモチベーションやコミットメントなどHRMのソフトバージョンは大きく発展していくことになる。これから説明するグループ・ダイナミクスもそのひとつだ。

 

グループ・ダイナミクス(集団力学)

グループ・ダイナミクスは、集団の運動法則の解明を目指す研究である。クルト・レヴィン、三隅二不二らを中心に進められた。ここではその主な概念である集団凝集性と集団規範を紹介する。

集団凝集性(group cohesiveness)

集団のメンバーを、その集団に留まらせうる求心的な力が働く強さ。集団凝集性の高い集団では、メンバーの心理的な帰属意識が高く連帯感や仲間意識も強くなる。

ショーショアの仕事に関連した不安と凝集性との関係研究によると、凝集力の高いメンバーのほうが、低いメンバーよりも、仕事における不安や緊張感が少ないことが分かっている(下図参照)。凝集性を高める要因は以下のとおり。

  1. 集団の目標が魅力的であること
  2. 集団の目標が自分の目標として受容されていること
  3. メンバー間の対人関係がよく心理的な安定に結びついていること
  4. 集団が周囲から高い評価を受けているとメンバーが認知していること
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集団凝集性と仕事の緊張感(心理学的経営を元に作成)

近年はGoogleの事例から「心理的安全性」が話題にあがることが多いが、集団凝集性に必要な要素として理解できる。

 

集団規範(group norm)

メンバーに同調行動を促すような圧力を伴う心理的な準拠枠。上司からの指示のようなフォーマルな影響ではなくて、自分が心理的に所属している集団(=リファレンス・グループ)のなかで形成されている規範に人々の行動はしばられ、支配される。

二つの集団に心理的に属する場合(労働組合への参加や、マトリクス組織など)、二重忠誠となり不健康な組織風土を醸成する要因となりかねない。イデオロギーや主義主張の対立というよりは、感情の行き違いという情緒のレベルでの問題が現実的には重要となる。

自分はどのグループに所属しているのか。そのなかでどう振る舞えば良いのか。マトリクス組織やプロジェクト制の中では凝集性は高まり難く、感情の行き違いも増える。さらにこれからフリーアドレスやテレワークによってそれは促進されるだろう。

さあ、これからグループはどうあれば良いのか。次回は自律的なグループについて考えていきたい。

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