組織活性化
組織活性化はきれいごとではない
前回は組織開発の領域を見ていったが、実際に組織を活性化させるということは、きれいごとではない。もっとドロドロした、汗と泥にまみれた葛藤の中にこそ、その原動力がある。
大沢武志『心理学的経営―個をあるがままに生かす』は「なぜリクルートはそんなに元気なのか?」という世の中の問いに答えた本だ。リクルート社専務時代に組織人事、活性化担当であった大沢さんの「実践」が詰め込まれている。
その中からここでは「組織活性化」についてご紹介しよう。リクルートで組織を活性化させてきたポイントを、大沢さんは次の方針としてまとめている。
(株)リクルート「企業の戦略的活性化のポイント」
一に採用
新たな人材の導入自体もカオスの要因だが、採用活動の過程も活性化の機会となる。全組織的な次元で人材確保に取り組む動きが、組織を活性化の渦中に入れ込む。 新人を迎える時の共振現象は、新秩序に向けたシンクロナイゼーションをもたらす。
二に人事異動
人事異動は、個人にとっても成長の契機になる点はもちろんの事、残された職場にとっても活性化への契機となりえる。「なるようになるものだ」といった自己組織化のメカニズムが働き、個人の能力開発も進行する。 自己申告が活かされた柔軟な人事異動は、組織の活性化策として機能する反面、異動の頻度がある限界を超えると、自己修復が不可能になることは留意すべき。
三に教育、四に小集団活動、五にイベント
自分の専門知識やこだわりを捨てられる柔軟な発想への転換が、教育にも求められる。自律的小集団を、企業組織の運営単位として日常化する事が組織活性化を促進する。カオスの過程を克服してイベントを成功させたとき、全組織が融合し共振する事ができる。
活性化とは「カオス」である
大沢さんによれば、秩序を作って秩序を壊すエネルギーこそが活性化の源泉である(下図参照)。
つまり活性化している組織とは、雑然とした無秩序の混乱、いわば「カオス」の状況だ。
固定化した階層組織、型にはまった役割、規則・制度・ルールなどの「管理」された組織がその逆である(M.ウェーバーの官僚制組織)。無駄を排除し効率化を志向すると、仕組みの裏にある情緒やエネルギーを押し殺してしまうのだ。
「管理」された不活性組織は安定しており、過去の成功に安住する。外部に対し閉鎖的で、既成の価値観や形式に拘泥する。活性化した組織は内部に「カオス」を創出して変化に適応する。既成の秩序を自己否定する。危機感と緊張に満ちた組織である。
アンラーニングの促進
長い時間をかけて環境に適応し、成功体験を内部に蓄積した組織は、その過程で得た学習体系を「習慣」や「常識」として浸透させる。これらは貴重な経営資源であるはずだが、イノベーションにとっては逆に障害となる。
変化の時代に対応するためには、学んだものや既成概念を捨て去ること(アンラーニング)がラーニングの前に必要である。アンラーニングによる自己否定が、現実には様々な抵抗を巻き起こす。このカオス状態によって既成の基準や規範は揺り動かされ、自己革新への展開を可能にする土壌が作られる。
自己否定と認知的不協和
活性化は自己否定から始まる。自己否定とは、既成の価値体系や暗黙の行動規範への疑問の提示、過去の成功体験の否定、現状の厳しい批判である。
人間の行動は、認知体系を構成する諸要素が矛盾なく整合するように自律的に調整される。人間は心の不協和を維持し続けることができない。これが認知的不協和の理論であり、組織理論につなげれば無秩序な状態から秩序を回復する自己組織化の考え方となる。
個性化はカオスに身をさらした先にある
ユング心理学における「自我」と「自己」そして「個性化」の概念(下図参照)も、活性化と照らして考えることができる。
抑圧され、排除された無意識というカオスに身をさらし、それを乗り越えたところに、ユングの言う個性化があり、自己実現があるのだ。
次回も心理学的経営から、小集団(数名のグループ)について考えたい。
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「「一に採用、二に人事異動、三に教育、四に小集団活動、五にイベント」リクルートではカオスを演出して組織を活性化してきた」に4件のコメントがあります
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