キャリア開発
今回はキャリア開発について考えたい。まず、そもそもキャリアとは何だろうか。
キャリアとは何か?
組織心理学者のエドガー・シャインによれば「人の一生を通じての仕事、生涯を通じての人間の生き方、その表現の仕方」であり、厚生労働省(キャリア形成を支援する労働市場政策研究会)によれば「経歴」「経験」「発展」そして「関連した職務の連鎖」だそうだ。
語源はラテン語の「Carraria」で「わだち」つまり馬車が通った車輪の跡のことだ。
ふと振り返ったときに、どう進んできたか、刻まれている跡こそがキャリアなのである。
将来どうなっていたいか、どうなるべきかを描くことがキャリアだという考え方もあると思うが、不確かな未来を無理やり具体的に描くことよりも、過去の自分のきた道を振り返り、今の仕事の上でどう生きるかを考えるヒントを得ることのほうが、語源に近く、本質的だと私は考えている。
キャリア開発の主体変化
日本企業はこれまで終身雇用と年功序列を前提として、企業主導による一律の人材開発を行ってきた。
しかし1990年代に入り外部環境変化に対応するためリストラやフラット化な組織変革が進められ、長期雇用を前提とした形が機能し難くなった。その結果、個人のキャリアが着目され、企業は支援する立場をとるようになってきた。
個人と企業それぞれの責任
前述の状況から、個人には雇用されて価値を発揮できる能力(転職できる力)を向上させる責任が求められるようになった。この力をエンプロイアビリティと呼ぶ。
そして企業は、高いエンプロイアビリティを持つ個人が、能力を発揮し価値を生み出す機会を提供する責任を負う。これができなければ優秀な人材は辞めていくことになる。
働く期間は50年、企業の平均寿命は24年
人の平均寿命は延びている。85歳まで生きるとすれば、多くの人はその年齢まで貯蓄や年金だけで暮らしていくことは難しく、働き続ける必要があるだろう。「10年で一人前」であり、入社してから50年間働くとするならば、サードキャリア、フォースキャリアが当たり前になってくる。
企業が多様なキャリアコースを用意することも1つの方法だが、企業の平均寿命は24年前後であり個人が働く期間よりも短い。個人が自らのキャリアを考え、自らの働く場を開拓するほうが現実的かつ理想的である。
キャリア・アンカー
キャリアを考える上で参考となる、組織心理学者エドガー・シャインの「キャリア・アンカー 」を紹介したい。
アンカーとは船の「錨」だ。キャリアという「航海」において、どんな仕事や職場であっても、自分という船の「錨」を降ろし、自分らしさを失わない、安定した「よりどころ」となるもの。
キャリアを選択するときに一番大切な価値観や欲求。周囲がどうあれ、どうしても譲れないもの。それがキャリア・アンカーである。
そのよりどころとは「セルフイメージ(自己概念)」だ。自分が「どうありたいか」を次の3点、Will・Can・Mustから考える。
Will -何をやりたいか
動機、欲求、人生の目標は何か
何を望み、何を望まないか
Can -何ができるか
才能、技能、有能な分野は何か
強み、弱みは何か
Must -何をなすべきか
価値観、判断の基準は何か
今の仕事は自分の価値観と一致しているか
今の仕事は誇らしいか、恥ずかしいか
そしてキャリア・サバイバル
中長期で自分の内側を見つめどうありたいかを考えるキャリア・アンカー。実はそれはキャリアの片面である。変化する外部環境にどう適応するかを、どう生き残るかを考える必要がある。それをシャインは「キャリア・サバイバル」と呼んでいる。
日々サバイバルして生き残ることも、時にはアンカーを降ろして内面とじっくり向き合うことも、どちらもキャリアには必要なのだ。
次回は、リーダーシップ開発について考えたい。
参考文献
- 守島基博『人材マネジメント入門 日経文庫B76』
- 小野泉・古野庸一『「いい会社」とは何か 』
- 奥林康司・平野光俊・上林憲雄『入門 人的資源管理』
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「キャリアの問いは、何をやりたいか、何ができるか、何をなすべきか、そしてどうやって生き残るか」に11件のコメントがあります
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