三輪昌生トレーナーのこと
伝説のマスタートレーナー
ジェントルな老紳士。白髪に白ヒゲ、上品なスーツにいつもハットを被っている。背筋がまっすぐに伸びていて動きの1つひとつがしなやかだ。大学時代には役者として舞台に立っていたそうだ。
三輪昌生さんはリクルートマネジメントソリューションズのマスタートレーナー(トレーナーの先生)。70歳代でまだバリバリの現役トレーナーでもある。
特にLDPという多面観察を用いたリーダーシップ開発研修の大家だ(リクルートの強みの源泉と言われるLDP研修については「部下の目に映った姿こそが『影響力』としてのリーダーシップの実像そのもの」参照)。
私からすると三輪さんはリクルート創業者江副さんやSPIを作った大沢さんと同じく神話上の人物だった。
三輪さんのLDPといえば仕事仲間の中では「あの伝説の」「一度見てみたい」と語られ、ベテランの先輩からは「お前もああいう本物を味わった方がいい」「研修の概念が変わるよ」と教えられてきた。
幸運なことに、そんな三輪さんから2年間教えを受けることができた。人材開発の原点を探るプロジェクトでのことである。
話が通じない葛藤
そして、私の貧弱な世界観は何度もぶっ壊されることになった。
当時人事コンサルタントだった私はこの伝説の人物の考えをどうにか理解したかった。しかし自分の知っている常識や概念はまったく通じなかった。
まるで禅の高僧のようだ、と思った。
こちらの問いには何も答えてくれず「そう」と微笑まれるばかり。
「ゆで卵の殻が剥けたように、つるんとすること」「幽霊の正体見たり、枯れ尾花」何をおっしゃってるのかよく理解できない。
憧れは途中で失望に変わった。私は禅問答をしたいのではない。人材開発について知りたいんだ!その怒りを、失礼にも直接ぶつけてしまったこともある。
しかし三輪さんの言葉は、後になって自分の小ささとともに了解されることになるのだ。まさに人生の師。自分の学ぶべき道を何十年もプロとして歩いてきた方が目の前に存在してくれることのありがたさは、言い尽くせない。
その教えは「自分を好きになること」
三輪さんはよくI’m OK. You’re OK.と言う(エリックバーン交流分析の言葉だ)。自己受容、つまり自分を好きになることがその教えの根幹である。
「受講者が自分を好きにならないとき、私は豹変します」
自己受容ができなければ他者受容はできない、そこがなければ影響力(リーダーシップ)を発揮できない、ということだと私は解釈している。
そう、解釈こそ肝心だ。三輪さんの言葉は、そして態度は、解釈されてこそ意味を持つ。価値がわからない人にはまったくわからないようにできている。この教えは禅の構造であり、師弟関係の本質であり、Presenceである。私がそこに気付いたのは三輪さんと過ごした2年間のおかげだ。
だから三輪さんの研修は大手企業の経営層などハイクラスに刺さる。思考経験レベルの浅い人達には理解できない、それは(当時の私のように)理解しようとしているからだ。十牛図が示すとおり、理解を意識しているうちは理解できない。
下は私がリクルートを卒業した2015年12月に、三輪さんに贈っていただいた言葉だ。温かく、そしてずっしりと重い。
「人」は死ぬときはひとり。
生きるとは孤独に慣れる旅。しかし「人間」とは相互関係性の中で成立するもの。だから他者との交歓、交換、交感こそが生きていること。
仏陀もソクラテスもイエスも教えの共通根源は「心の解放」。つまるところ自己受容であり自責。
江副も大沢も、私を支え共に切磋琢磨した先輩達も、もう誰もいません。一人芝居と思われようが、「人を生かす」ことの核心を見出していかねばなりません。
「深い喜びを見つけ、受け止め、あふれさせる」ようにしたいと思うのです。これが、突き詰めると、今、そして生きている限り私の命題であることは、疑いがありません。
かような青臭い若きころの想いを、今回のプロジェクトで坪さんが引き出してくれた感じが強くて。お礼の気持ちを込めて。
三輪さん、あの頃は理解できなかったことも、少しわかってきました。私もまだまだ進みますよ。
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