組織のミッション
組織開発とは『組織の効果性を高めることを目的に、行動科学を応用した、組織内のプロセスを変革する、計画的な取り組み』であった。
組織の何に向けて効果性を高めていくことが組織開発なのだろうか。そもそも組織の目的とはなんだろう。今回は、組織のミッションについて考えたい。
ミッションとは使命のこと
ミッションとはキリスト教の「伝道」であり、神から授かった「使命」のことだ。
P.F.ドラッカー『マネジメント―課題、責任、実践』によれば、あらゆる組織は社会の機関であり、社会やコミュニティ、個人のニーズを満たすために存在する。ニーズを満たすことができない企業は存続する意義がなくなる。よって、企業という組織の目的は「顧客の創造」だと言う。
どのような分野で顧客を創造するか、自社を定義する「われわれの事業は何か、何になるか、何であるべきか」という問いに答えることが、自社のミッション(使命)を知ることになる。
ミッション・バリューとビジョン・戦略
リクルートマネジメントソリューションズ『経営理念(ミッション&バリュー)はなぜ浸透しないのか?』ではミッションとそれに近い概念を整理してくれている(下図参照)。

- ミッションは「企業が社会において果たしたいと考える役割」つまり、社会からどのような存在として認められたいか、を言葉にしたもの。
- バリューは「企業が社会に提供したいと考える価値」つまり、価値の提供相手にどのようなベネフィット(benefit 利益・恩恵)をもたらしたいのか。
立ち位置の違いはあるが、ミッションとバリューの本質は同じものだ。経営理念とも呼ばれる。
- ビジョンは「数年後のあるべき姿」。
- 戦略は「現状とビジョンとのギャップを解消するやり方(勝ち方)」。
ビジョンと戦略は3年あるいは5年といった区切られた期間をフォーカスするケースが多い。
ミッションとバリューは期間の区切りは設けず、基本的な価値観として長い時間をかけて組織に根付いていくものだ。毎年のように変更されるミッションやバリューはスローガンの域を脱していない発展途上のものと言える。
変えるものと変えないもの
ビジョンや戦略は環境によって変えるものだが、ミッションやバリューは変えないものだ。環境が変わっても、変わらない経営理念(ミッション)を持っていなければ信頼は形成されない。
小野泉・古野庸一『「いい会社」とは何か 』によれば、信頼形成のベースは過去から現在、そして未来への「一貫性」だ。
信頼とは「他者が自分に悪いことはしないだろう、という期待を持ち、そこに身を委ねたり、弱みを見せたり、リスクをさらしてもいいという心理状態になること(デニス・ルソー)」である。昨日まで信頼できる行動をしていれば、明日も信頼できるだろう、と思える。
日本企業の経営理念
米国型株主主権の資本主義の思想的バックボーンであるミルトン・フリードマンは「企業にとって大切なのは利益を上げること。利益の一部をCSRと称して社会貢献活動に充てていくことは、株主が得るべき利益を盗む行為」と言っている。
しかし日本企業は元来、家訓や企業理念としてCSR的な考えを持っている。
近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」や、キッコーマンの「地域社会にとって存在意義のある会社」、住友の「自利利他公私一如」など、伝統ある日本企業は「会社は社会の中で生かされている」と考えてきたのだ。
松下幸之助は「企業は社会の公器」だと言っている。ドラッカーの「社会の機関」よりも受容性があり有機的で温かみがある表現で、非常に日本的だと思う(壺ですね)。
次回は、日本で長く生き残り、優良と呼ばれている企業の特徴を見てみよう。

「ミッションは使命。変わらない「一貫性」が信頼を生む」に14件のコメントがあります
コメントは受け付けていません。