ジョブローテーションと幹部育成
前回は異動を適材適所の観点から考えたが、日本企業にとって異動はもう一つ大きな意味を持っている。それは経営幹部の育成だ。
多くの日本企業は幹部育成のプログラムがなく、計画的な異動(ジョブローテーション)によってそれを行ってきた。
ジョブローテーション
ジョブローテーションとは、人事主導で計画的に異動を行うことだ。多様な社内業務に精通したゼネラリストの育成方法として、日本企業では長く行われてきた。その目的は以下の3つだ。
- 多様な側面の社内能力の開発
- 他部署間のコミュニケーションの活性化
- 職務と人材の過剰な密着性(秘密性、不正の発生)の回避
そこには終身雇用、職能資格による中長期での育成という前提がある。社内で通用する能力を満遍なく身につけたゼネラリストは、専門知識を深めたプロフェッショナルにはなりにくい。うまく経営幹部に育ったとしても、日本では経営プロの労働市場が発達していないため、一度外れてしまったら他にいけない可能性もある。
長期の競争と短期の競争
終身雇用の日本企業では、同期入社の間に一定期間の昇格・昇給にあまり差をつけず、その結果として「長期の競争」となることを重視してきた。従業員のモチベーションを長期間維持すること、従業員育成に対する長期的視野を持つことが目的である。
一方で、欧米企業では「短期の競争」を重視し、早期選抜制度(ファストトラック)を取り入れている企業が多い。目的は、優秀社員の早期育成・選抜、社員間の競争の促進、優秀な社員のリテンション(辞めさせない)のためである。(日本でも「隠微なファストトラック」は存在する。銀行が典型的だが、なんとなくわかる出世コースのことだ。)
ファストトラック
ファストトラックとは将来の幹部候補を入社後早期に選抜し、彼らに特別なキャリアルートを用意することである。
ファストトラックに乗っていることが公開されると本人の意欲は向上するが、選ばれない人の意欲は低下する。また、選ばれた社員のエリート意識の肥大、年下上司への心理的抵抗感などが問題点として指摘されている。
これからの幹部育成の位置付け
一律のジョブローテーションに無理やり乗せれば、プロフェッショナルを目指す優秀な人は定着しないだろう。一方で横並びを崩したファストトラックも様々な問題点があり、扱いは難しい。
キャリア志向の調査結果(下図)を見ると、一つの会社で昇進していくことを目指している人は10%しかいない。52%は専門家としての道を歩きたいと考えている。

幹部は企業にとって重要だが、必要なプロフェッショナルの一形態でしかないと捉えるべきではないか。様々なプロフェッショナルが活躍する中で、マネジメントのプロ、経営のプロというキャリアもあり得る、という形だ。
他の道は、出世コースから外れたのではなく、それぞれの専門性を高めたカラフルなプロフェッショナルでありたい。
ここは、テーマ6.人材開発でも引き続き考えていく。

参考文献
- 根本孝・金雅美『人事管理(ヒューマンリソース)―人事制度とキャリア・デザイン (マネジメント基本全集)
』
- 八代充志『人的資源管理論
』
- 小野泉・古野庸一『「いい会社」とは何か
』
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「一律のローテーションでも、高速の出世コースでもなく、カラフルなプロフェッショナルの道を」に11件のコメントがあります
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