人と事の二側面
日本の個と組織の変遷
古野庸一 ・小野泉『「いい会社」とは何か (講談社現代新書)』では、日本の個と組織の変遷を下表のように見ている。平時には中長期を見据えた「人」への投資がなされていても、経済危機になると企業の成果「事」に向けて短期的に人をコマとして扱ってしまう。そしてまた経済的に余裕が出ると人に再注目する…。「人」と「事」の波は交互に襲ってくるのだ。

アメリカHRM理論における二側面
1.「人」のモチベーションに着目したソフトバージョン
1940年代後半からMaslow, Herzberg, McGregorらが「自己実現」「やりがいのある仕事」といった論を展開した。
経済学ではBeckerが人的資本理論(Human Capital Theory)にて「人的資本への投資」が経済的効果をもたらすと実証した。
産業界でもQWL(Quality of Work Life)運動が広がり「職務拡大」や「職務充実」によって「ワークモチベーション」を高めようという動きが起きた。
これらの流れはネオヒューマンリレーションズ(組織心理・組織行動)と呼ばれ、StoreyはHRMの側面「ソフトバージョン」として説明した。ソフトバージョンでは、社員のモチベーションやコミットメントの向上によって、組織パフォーマンスを最大化するのだ。
2.「事」を戦略的に進めるための「ハードバージョン」
1970年代には多角化・ポートフォリオマネジメントなどの企業戦略論、1980年代にはPorterの競争優位論が登場し、人材マネジメントにもっと戦略的な視点が必要だと議論された。
StoreyはこれらをHRMの側面「ハードバージョン」として説明した。ハードバージョンでは、人的資源の活用によって組織パフォーマンスを最大化するのだ。
(1.2.の各理論は須田敏子『HRMマスターコース―人事スペシャリスト養成講座』を参考に記述した。)
「人」と「事」の両立が「人事」の仕事
守島基博は『人材マネジメント入門 日経文庫B76』 の中で、「戦略達成と人間の価値向上の両立が人事の役割」だと言っている。「一見対立する2つの価値の交差点で仕事をするのが人事」とも。
変わり続ける外部環境の中、人(ソフトバージョン)と事(ハードバージョン)の両側面を睨んで個と組織を支え続けるのが「人事」なのだ。
次回は、効果的な人材マネジメントについて考えたい。

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